はじめに
私たちが普段何気なく使うスマートフォン。近年、このスマートフォンの性能は著しい成長を遂げており、特にCPUの高性能化は目を見張るのもとなっています。これに伴い、私たちがスマートフォンを用いて扱うことのできるタスクの種類は非常に幅広く進化し、より高度な処理も行えるようになりました。
その例として顕著であるのが、ディスプレイの高精細化であることは言うまでもありません。Fig.1は、世界で初めて4Kディスプレイを搭載した Xperia Z5 Premium の外観です。ディスプレイの高精細化は即ちより多くのリソースをCPUに課すことであり、スマートフォンの進化を象徴的に表すものであります。
Fig.1 Xperia Z5 Premium – スマートフォン史上初の4Kディスプレイを搭載した
このように、スマートフォンの高性能化によって私たちは様々な恩恵を受けてきました。しかしながら、高性能化には少なからず弊害が発生すること忘れてはなりません。
その弊害として代表されるものの一つに、CPUの発熱があります。発熱は主にCPUの高クロック化がもたらす現象の一つです。CPUの高性能化には、プロセスの微細化、そしてクロックの増大が大きく影響しています。プロセスの微細化は消費電力を削減させ発熱を抑制する働きがありますが、クロックの増大は発熱を誘起し、これがCPUの発熱の要因となります。
当然ながらPC・スマートフォン製造各社は発熱を抑えるべく、数多くの施策を講じています。その代表的な方法の一つは、冷却ファンを取り付けることです。現在世に普及しているほぼ全てのPCには冷却ファンが取り付けられ、これをCPUの発熱対策としています。さらにヒートパイプ、冷却液等を用いることによりさらに冷却効果を高める場合もあり、特にオーバークロックの際には多くの効果が得られます。
つまり、あらゆるものをオーバークロックし、全体で動作速度を高めることになります。 馬力を上げると当然ながら発熱量も増えます。多くの PC モッダーは、冷却ファンに加えて、水冷システムのチューブとラジエーターを追加しています。
「まさにドミノ効果です。 テクニカルな改造からスタートしても、あっという間にこの状態です。 青く塗ったらどうだろう? チューブをこの上に通したらクールかな? などとね。 もはや中毒状態です。もちろん良い意味で、ですが」
多くのPCには冷却ファンが取り付けられていますが、スマートフォンに冷却ファンを搭載している事例は現時点では存在しません。そして多くの場合、スマートフォンの発熱を抑える役割を担っているのは内部に搭載されたヒートパイプです。先述したXperia Z5 Premiumの場合でも、発熱を抑えることを目的としてヒートパイプが組み込まれています。
残念なことに、このヒートパイプはCPUの発熱を抑えるのに力不足な場合があります。富士通のアホーズ、Xperia Z4等、数多くの機種で発熱が原因となる不具合が発生しています。
ARROWSユーザー、返金を求め訴訟――見事に勝訴 ? すまほん!!
価格.comの書き込みによると、NTT docomoから販売されていた富士通のARROWS X F-10Dを購入したユーザーが、解約と返金を求めて民事訴訟を起こし、勝訴したそうです。判決文によれば、原告はユーザー自身、被告は富士通の当該機種を取り扱っていたNTT docomoとな…
smhn.info
上記で紹介したような不具合のほか、充電しながらの連続使用による低温火傷、過熱制御によるクロック低下等、ヒートパイプでは対処できないCPUの発熱による事例は数多く存在します。
この問題を解決すべく、スマートフォンに冷却ファンおよびヒートシンクを取り付け、空気の強制対流熱伝達を用いることによってCPUの過熱を抑える手法が提案されています(株式会社恭和 特開2014-26341)。
(57)【要約】
【課題】 スマートフォンなどの携帯情報端末を高負荷状態で継続的に使用する場合であっても、その際に生じる多量の発熱を確実に放熱冷却し、安定的な動作を維持させることができる新規な携帯情報端末用の放熱装置、並びにこれを用いた携帯情報端末用の放熱システムの開発を試みたものである。
【解決手段】 本発明の携帯情報端末用の放熱装置Cは、携帯情報端末Pから発せられる熱Hを排除するための冷却装置であって、このものは、携帯情報端末Pを覆うカバータイプ冷却装置1として構成され、このものにおけるカバー本体10は、携帯情報端末Pのそれぞれの機能確保のためにアクセス開口部13が設けられており、更に前記カバー本体10には、熱Hを外部放出するための放熱構造14を有していることを特徴として成るものである。(株式会社恭和, 特開2014-026341, 2014年02月06日 )>> 携帯情報端末用の放熱装置、並びにこれを用いた携帯情報端末用の放熱システム – 公開特許公報 特開2014-26341
しかしながら、この手法の場合では可搬性に欠ける、別途冷却ホルダを要する、電源を外部から取得する必要がある等、携帯端末としての可搬性に大きく欠点があります。
そこで、これらの欠点である可搬性、冷却ファンの外付け、および外部電源の必要性に対して、可搬性に優れ、冷却ファンと電源を内蔵した、新しいスマートフォンケースを考案することとしました。
以下、この冷却ファン付きスマートフォンケースの概要を紹介します。
概要
研究論文並みに長ったらしい前置きを読み飛ばしてもらったところで、ここからは簡単に紹介していきます。
設計手順、製作過程などをご覧になりたい方は以下のリンクからご覧ください。
このページではあくまで簡単な紹介に留めたいと思います。
>> 1. 最強の冷却性能を目指す!基本・構想設計編
>> 2. クールなデザインを目指して。詳細設計&先行研究編
>> 3. いよいよ製造目前!部材購入&仕様最終決定
>> 4. フライス盤でガリガリ。製造過程はコチラ
>> 5. 完成品お披露目&感性評価
製作の過程
冷却ファン付きスマホケースの第一の目的はスマホを冷やすこと。
これは何よりも優先すべきことです。
まずは「形状」「冷却ファン」「スマホとの合体方法」について考えました。
この3つの条件から、よく冷えるスマホケースを考えます。
しかし、実は過去にも冷却ファン付きスマホケースを作成したことがあります。よく冷却できる形状も把握済み。
今回はそれをパクることに。
前に作成したファン付きスマホケースは下のような外観です。
検証に検証を重ね、冷却効率の高い形状となっています。※1
コチラの詳細は、2. クールなデザインを目指して。詳細設計&先行研究編 をご覧ください。
上記のスマホケースは、スマホを冷却するのではなく手を冷却する代物でした。形状を応用することでスマホを冷却できるよう再設計を行います。
いろいろ考えた結果、次のような条件で作成することとしました。
- 材料はアルミ合金とする
- バッテリーを搭載し、USB充電でいつでも利用可能にする
- iPhone・Androidスマホ問わず、色々なスマートフォンで利用可能にする
- 着脱を容易にする
- 冷却ファンには軸流送風式のもの
- エアフローは、スマホ背面に空間を設けてそこに空気を送り込んで冷却する
- 2時間くらいは連続使用できるようにする
- 何とか人前でも使えるような見た目に仕上げる
- 一人でも作れるようなやつ
- 飽きる前に作り終わりたい
PCを立ち上げるのが面倒なため、紙に手書きで図面を引くことに。
図面をもとに、さっそく材料を購入。加工に取り掛かります。
ガリガリ削っていきます。アルミ削り出しです。
この機械加工が最高に面白いんですよね。
10μmくらいの誤差を手仕上げで仕上げていくのとかも堪らないっす。
タップ(ねじ穴を作る道具)で雌ねじを切っていきますが、途中で何故か「メキメキッ」という音が。
やってしまった。
見事にタップが折れています。
研究でも何でもない遊びのために、学校の備品を破壊していくスタイル。
その後も少しずつ備品を消耗させながら、何とかスマホケースの形にしていきます。
途中で3か月ほど飽きて放置したり、卒業式前日に急遽思い出して作業したりしながらも、就職直前ギリギリに何とか完成させたものがコチラです↓
完成品
ダサい。
名付けて、「 Xperifan 」。
その名の通り、Xperia & Fan を足し合わせただけの名前です。
iFanやiPhaneといった名前にしなかったのは諸々の事情がありますが、それはまた別の話。
基本材料はアルミ合金(A5052)で、その上にプラサフ(シルバー)と黒色塗料、クリアーで塗装しています。
お金があまりなかったので、プラサフなどの一部の塗料は学校の廃棄品から再利用しています。決してゴミ漁りといってはいけません。
部材同士、つまりアルミの接合にはネジやセメダインを使用しています。
セメダインとか小学生の図工かよ、といった指摘は野暮です。
スマホをコイツに装着するには、ネジを使用する格好です。
落としたら外れてしまう気もしますが、落とさなければ大丈夫でしょう。
ちなみにXperia以外でもちゃんと使えます。
性能
まずはファンの連続稼働時間。
この冷却ファンは、満充電で連続2時間使用できます。
バッテリーが350mAh、3.7Vであるのに対し、冷却ファンは0.19A、5V駆動です。電圧が足りません。ですので妙に生易しい回転をしますが、バッテリーを増やしたり昇圧させるのはめんどくさそうなのでスルー。
時間とともに変化するバッテリーの電圧をグラフにしています。
大体2時間くらいは使えるはずです。
気になる冷却性能について。
そこそこ冷えるような気がします(主観)。
そのうちBatteryMixとかで温度計測してみたいですね。
最後に外観について。
作成にあたり、外観として一応目指していたものがあります。
NVidiaのGTX 980というグラフィックボードです。
かっこいいですね。こうでありたかった。
もう一度言う、ダサい。
文字を塗装したり、マスキングしたりするのはできませんでした。
本当はもう少しGTX 980っぽく見せるつもりだったのに…
以上で紹介は終わりです。
製作過程や費用、いろいろなアクシデントをご覧になりたい方は別のまとめページをご覧ください。
このページをご覧になっているということは、スマートフォンに冷却ファンを取り付けることに少なからず興味があるとい…
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>> 1. 最強の冷却性能を目指す!基本・構想設計編
>> 2. クールなデザインを目指して。詳細設計&先行研究編
>> 3. いよいよ製造目前!部材購入&仕様最終決定
>> 4. フライス盤でガリガリ。製造過程はコチラ
>> 5. 完成品お披露目&感性評価
ちなみに家では常用しています。→一瞬で使わなくなりました。
外では…
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