多くのアフィリエイトサイトでは、Bluetoothバージョンが新しいとハイレゾ音質が良くなるなどと煽り散らかしており、それによって高価格帯の最新製品をユーザーに買わせ、多くの収益を得ている。
「ワイヤレススピーカー おすすめ」
などと検索すれば、ろくに調べもしていない胡散臭い記事が検索上位に多く出てくる。実際に検索してみれば良く分かるだろう。
筆者も久々にBluetoothイヤホンを購入しようと思い、Google検索したのだが、その検索結果に大変驚いた。
客観的な数値や技術的根拠、出典が全くなく、ただユーザーに高い製品を購入させようとしている記事で溢れかえっている。
よって、本ページではアンチテーゼとして、Bluetoothバージョンとハイレゾ音源のビットレートに焦点をあてて、あくまで客観的かつ技術的根拠に基づいて解説を行う。
一人でも多くの方が、誤解したまま口車に乗せられて、高い製品を買ってしまわないことを祈る。
Bluetoothバージョンとビットレートの対比表
早速だが、結論を下表に示す。左にBluetooth Ver.を、2列目以降にハードウェア拡張仕様別の最大実行速度(データレート、ビットレート)を示す。
Bluetooth Ver. | Bluetooth LE | Bluetooth HS | Bluetooth EDR | Bluetooth BR |
5.4 | 2 Mbps | 廃止 | 3 Mbps | 1 Mbps |
5.3 | 2 Mbps | 廃止 | 3 Mbps | 1 Mbps |
5.2 | 2 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
5.1 | 2 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
5.0 | 2 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
4.2 | 1 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
4.1 | 1 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
4.0 | 1 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
Bluetoothの規格に詳しい一部の方を除き、この表を見て一発で理解できた方は少ないと思う。
まず、頻繁に話題に上がるBluetooth Low Energy(Bluetooth LE)について。
理論転送速度は1~2 Mbpsだが、実行速度としては数十kbps程度であるため、そもそも参考にならない点に注意が必要だ。
LDAC等のコーデックがBluetooth LEに対応していないことからも、Bluetooth LEを音質の話題に挙げるのは不適切だと分かるだろう。
そもそもBluetoothにはPHY層にBR、EDR、HS、LE(その中に1M PHY、2M PHY、Coded PHY)などのハードウェア拡張仕様があり、一概に実行速度を表記することはできない。
一応、最も実行速度が速いのはBluetooth HS (High Speed)であるが、すべての機器に搭載されているわけではない。
このことからも、
「Bluetoothは最新バージョンのほうが通信速度が速い」
という記事やアフィリエイトサイトは、的外れであることが分かるだろう。
なんならBluetooth 5.3以降はBluetooth HSが削除されてしまっているため、仕様上は最新のBluetoothのほうが遅いというのが正しい。Bluetooth HSは無線LAN規格IEEE 802.11のMAC/PHY層を利用していた。
また、よくある勘違いとして、Bluetooth 4.0以降 = Bluetooth LEという主張がある。Bluetooth LEのほか、HS/EDR/BRなどの拡張仕様があるため、これは誤りである。
Bluetooth LEの通信速度については、以下の記事が専門的で詳しい。
Bluetoothのハードウェア拡張仕様については、以下の記事が分かりやすくまとまっている。
ハイレゾ音源のビットレート
続いて、ハイレゾ音源のビットレートを下表に示す。
スペック、コーデック | サンプリング周波数 / 量子化ビット数 | ビットレート |
CD-DA | 44.1 kHz / 16 bit | 1411 kbps |
DAT | 48 kHz / 16 bit | 1536 kbps |
リニアPCM / FLAC / Apple Lossless / AIFF / LDAC / DSD | 96 kHz / 24 bit (Min.) | 2304 kbps |
最低限、1411 kbpsのビットレートで通信できれば問題ないことになる。
ちなみに、ビットレートは、
サンプリング周波数[kHz] × 量子化ビット数[bit] × 2(ステレオ)
の式から求めることができる。
ここで、先ほどの表を見てみよう。
Bluetooth Ver. | Bluetooth LE | Bluetooth HS | Bluetooth EDR | Bluetooth BR |
5.4 | 2 Mbps | 廃止 | 3 Mbps | 1 Mbps |
5.3 | 2 Mbps | 廃止 | 3 Mbps | 1 Mbps |
5.2 | 2 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
5.1 | 2 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
5.0 | 2 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
4.2 | 1 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
4.1 | 1 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
4.0 | 1 Mbps | 24 Mbps | 3 Mbps | 1 Mbps |
ハイレゾ音源の再生要件を満足する部分に、赤色の下線を記している。
ほとんどの通信機器で採用されているBluetooth EDR方式を見ると、2009年に登場したBluetooth 4.0が搭載されていればビットレート的には問題ないことが分かるだろう。
プロトコルが対応していないなど、別の要因は除くとして、古いBluetooth 4.0対応機器でもハイレゾ音質が悪くなることはないのである。
言い換えれば、最新のBluetooth Ver.を搭載した機器でも、ハイレゾ音質が良くなることはないのだ。
結論
繰り返しになるが、最新のBluetooth Ver.を搭載した機器でも、ハイレゾ音質が良くなることはない。
超レアケースとして、遠距離で使用していて通信安定性を高めたい場合や、非常に古い機器のため通信プロトコルが最新のものに対応していないなど、例外は存在する。
ただし、多くのアフィリエイトサイトで言われる、
「Bluetoothバージョンが新しいとハイレゾ音質が良くなる」
という煽り文句は、ほとんどのユーザーにとっては誤りであると断言できる。
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